「ほら、出来たぞ。」
奏魔が、夕飯をテーブルに置く。
置かれたのは、肉じゃが。
完全に主夫みたいになってんぞ、奏魔。
 
一日限りの生活2
 
「うめぇわ…やっぱ、奏魔料理うめぇなー。」
「さすがセンセイ。こんなものが食べられるとは思わなかったクマよ…。」
奏魔が、やさしく笑う。
「それはよかった。」
「ヨースケもこんなの作ってほしいクマ。」
「いつも簡単な飯で悪かったな!」
カップラーメンとかそんなんばっかで。
奏魔が笑顔でクマに語っていた。
「いいか、クマ。飯は俺の役目だ。これを奪うのはいくら陽介でも許さない。」
「センセイがご飯係りなら、クマは何係りクマか?」
「クマは…癒しかな?いや、癒しとか慰めは陽介だろ…。」
「奏魔、何言ってんの!?」
奏魔の表情は真剣だった。
真顔でクマに何話してるんだ。
「まぁ、早く食べきれ。」
奏魔が肉じゃがを指差す。
あ、こんなうまい物食べなきゃ悪いよな。
 
夕飯を食べ終わった後、俺はソファーに座りテレビを見ていた。
クマと奏魔はその前のこたつでぬくぬくしていた。
奏魔が俺の隣に座り、こっそり囁かれた。
「陽介、今日は俺を慰めるために来たんだろ?」
「え、あ、いや、えっと」
やべぇ、動揺しちまった。
実際、そうなんだけどさ。
「ありがとう。陽介。」
奏魔が久しぶりに笑った気がした。
「隣で寝てくれるんだろ?」
「え、隣で!?」
「菜々子がいないから、寂しいんだよ。」
「クマがセンセイの隣で寝るクマー!」
「やだ、俺は陽介がいい。あ、川の字なんてどうだ?」
やばい、動揺してるうちに奏魔とクマがどんどん話を進める。
早く止めないとまずい!
「ちょ、ちょっと待てって!」
「ん?どうした?」
奏魔がこちらを見る。
「いや、慰めるとは言ったけど、さ。おまえの部屋布団だろ?」
「そうだが。」
「それって、隣どころか密着してるよ…な?」
「ああ、それが狙いだが気づくとはさすが陽介。」
はじめから狙ってたのかよ!
突っ込むつもりが恥ずかしくて声が出なかった。
「…旅館でも一緒に寝たじゃないか。不満じゃないだろ?」
「旅館はちゃんと少しは距離あっただろ!密着となると恥ずかしいっつーか…。」
なかなか決められない俺にイライラしていたのか奏魔は、俺の肩を強くつかんだ。
その力が痛い。
「慰めに来たんだろ…?だったらちゃんと役割果たせ。」
「…わかったよ!わかったから!痛いって!」
奏魔って結構我侭というか、寂しがりな所あるよな。
 
夜中、クマは早々に奏魔の押入れで寝てしまった。
奏魔の部屋に入ってから、奏魔はソファーに座り、不安気に俯いていた。
「菜々子は大丈夫だろうか…。」
「奏魔、心配することねぇよ。助けただろ、俺達。」
菜々子ちゃんは生田目から助けた後に、病院で寝たきりだった。
奏魔の表情は暗いままだ。
「そうだよな。堂島さんだって大丈夫そうだったしな…。」
「だろ。俺達に出来ることは終わったんだよ。」
「そうだよな…。」
ようやく奏魔は、笑顔を見せた。
俺は奏魔の隣に座る。
「あんま気にすんなよ、とは言わないけどさ…。俺をもっと頼ってほしい。」
「陽介…?」
奏魔が俺の顔を覗き見る。
「辛いんなら、傍にいてやりたいからさ。奏魔は一人で何でもやりすぎなんだよ。」
軽く奏魔の額を小突いた。
奏魔はどこかすっきりとしたような笑みを浮かべて言った。
「悪かったよ、陽介。」
奏魔の悩みは吹っ切れたような気がした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
まだ続きます。花主に見えるかもしれませんが、主花です。
ひとつのネタでここまで書けるというのは、あまりないです。