菜々子ちゃんが生田目にさらわれてから、奏魔は一人きりであの家に住んでいた。
俺がそれに気づくのは少し遅れた後だった。
相棒だと言うのに奏魔の寂しさに気づけなかったなんて、俺は相棒失格かもな。
一日限りの生活1
放課後、俺はあいつに声をかけた。
「なぁ、今日泊まりに行っていいか?」
「泊まる?いきなりどうした、陽介。」
やばい、奏魔に疑われてる。
奏魔って気を使われる嫌そうだよな…。
「や、あのさ…奏魔、菜々子ちゃんいなくなってから、一人なんだろ?」
「そうだが?」
奏魔の目が冷たい。
その目を見ていられずに、奏魔から目をそらす。
「その…それじゃ、寂しい、だろ…?」
「…じゃ、先ジュネス行くぞ。」
奏魔が俺の手をとる。
「え?」
「お前の分の飯がいるだろ。作ってやるよ。」
「奏魔…!分かったぜ!あ、今何が安かったっけな?」
ジュネスでやってるセールの内容を思い出す。
キャベツだったかな…。
「あ、ヨースケ!センセイと何してるクマか?」
「あ、クマがいたか…。」
ジュネスに寄ると、クマがバイトしていた。
そこで、俺は頭を抱えた。
俺が泊まりに行ったら、クマどうするよ…。
「陽介が、俺の家に泊まりたいって言うから、飯を買いに行ってる所。」
「あー、ヨースケずるいクマ!センセイの家クマも泊まりたいクマ!」
「そうか、クマは陽介が預かっていたんだったな…。陽介、いいのか?」
それは俺がクマをほっといていいのか、って事なんだよな。
「…俺は奏魔の傍にいたいんだよ。なぁ、クマも泊めていいか?押入れさえあれば大丈夫だから。」
「ああ、構わない。けど、これじゃ足りないな…。」
奏魔はカゴに入った食材を買い足しに行った。
「あ、わりぃな…余計に金使わせちゃって。」
「陽介のために飯作るの楽しいから、いいんだ。気にするな。」
奏魔は、俺に笑顔を見せてくれる。
「ありがとな、奏魔。」
奏魔の家というか堂島さんの家にきた。
この家には何度も来た事があるが、泊まりにと考えるとまた違うな…。
「おじゃまします…。」
中には誰もいない。当然だ、菜々子ちゃんも堂島さんも病院なのだから。
「そんなに遠慮するな。」
「あ、ああ…。」
奏魔は台所に立つと、楽しそうに笑う。
「飯を作るの久しぶりだな…。」
「そういや、菜々子ちゃんがいなくなってから、弁当もらわなくなったな。」
「菜々子が食材を買いすぎて冷蔵庫に詰まっていたから、弁当を作って消費してたんだよ。毎日作れなくて悪かったな、陽介。」
「いや、いいんだけどさ…。」
そして、手際よく料理を作り始めた。
奏魔はここに来て初めて料理を作ったとか言っていたが、それにしてはうますぎる。
…いや、天城達がおかしいだけだよな。
「あ、俺も手伝うよ。」
「クマも手伝うクマ!」
俺とクマが台所に向かおうとすると、奏魔に止められた。
「いや、二人はそこにいてくれ。うまい料理作ってやるから。」
奏魔が料理を作っている間、俺はテーブルの椅子(堂島さんがよく座っていた席らしい)に座り、奏魔を見ていた。
クマはコタツでぬくぬくとしていた。
奏魔が手を動かしながら、俺に声をかける。
「…俺ばかり見て楽しいか?」
「奏魔ってどうやって料理作ってんだろ、とか思ってさ。」
「なら、教えてやろうか?」
「え、マジで!?」
嬉しくて少し身を乗り出す。
いつも貰ってばかりだから、たまには俺が奏魔に飯を作ってやりたいと思ってたんだよね。
でも、それって俺が一人で頑張って、奏魔を驚かせるって線もありだよな。
いや、奏魔に教わるのも一緒にいられる時間が増えるからそれもまたいいよな…。
「…いや、やっぱりやめた。」
って、いろいろ考えているうちに夢が崩れ去った。
「なんでだよ!?」
思わずツッコむと奏魔が自慢げに笑う。
「これは俺の特権だから。陽介が自炊始めたら困る。」
「なんだよ、それ。」
「陽介は俺の作る料理を大人しく待ってればいいんだよ。」
「俺も奏魔に協力してやりたいって思うんだけど…。」
「これだけはやらん。」
奏魔って主張とかは絶対に曲げないタイプだからな。
奏魔と一緒に料理、という夢は完全に潰えたわけだ。
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書いていたらずれていきました。
そして、あまりに長くなりそうなので、ここで切ります。
陽介は主人公大好きだと思うんだ。