ノックの音が聞こえた。
俺が出る前に奴は入ってきた。
「順平ー…疲れたよー…」
ふらふらと勝手に俺のベッドにうずくまっていた。
忙しすぎる生活の休息
「おい八加?」
寝息が聞こえる。
「寝てんのかよ…。」
八加には悪いけど、八加を揺らして起こす。
「ん…?」
「寝るならちゃんと寝ろっつの。」
「ああ、そうだね…。」
八加はベッドに潜って、かけ布団をちゃんとかけて寝ようとしていた。
自分の部屋に戻るという発想はもうねぇんだな。
「おい、そこで寝るのかよ」
返事がない。また寝てやがる。
というか寝るの早すぎだろ。
そういえば、八加は部活だとか生徒会だとか同好会に全部参加しているらしい。
そのうえ平気な顔でタルタロスにまで探索している。
…八加がここまで疲れた顔するのは珍しい。
「…今日は何してたんだ?」
「今日は、生徒会の手伝い」
「昨日は?」
「…陸上部とタルタロス。」
八加はもぞもぞと起き上がる。
「やっぱ、俺、おまえ好きだわ」
「いきなりだね」
八加がくすりと笑った。
「お前無理しすぎ。」
「そんな事ないよ。」
「今、疲れてんだろ?」
「そうだけど…」
と、八加は大あくびをする。
「いいよ、今日はそこで寝てろ。」
「人恋しかっただけなんだけど。」
「いろんな人と会ってたんじゃねぇのかよ?」
「順平に会えないのが辛いの。」
「お前、恥ずかしい事言うよなぁ」
「顔赤いよ、順平」
「うっせ」
「でも、引き受けちゃったしやるしかないんだよなー。」
「俺はそうやって無理して倒れられても困るんだけどな。」
「順平の傍でなら問題ないだろ?」
「一人で倒れられてるよりはマシだな。」
「じゃあ、疲れたらまたここで寝るよ。」
「いいけどさ…俺の寝場所取られるのはな…。」
「なら、こっち来たらいいじゃないか」
ぐい、と八加に引っ張られて、ベッドに乗せられる。
布団に入れられ、八加に抱きしめられる。
これは抱き枕の用量で俺を使ってるな。
「おーい、八加ー?」
力がふと弱まる。
近いから寝息がよく聞こえる。
今度は本当に寝てしまったのだろう。
「ったく…しょうがねぇな…。」
今日は一緒に寝てやるか。
これが女の子だったらなー…と思ったけど、八加ならまぁいいか。
翌日。
ゆかりッチが八加に用があったらしく慌しく俺の部屋のドアを叩く。
八加を起こさないように降りて、ドア越しにゆかりッチと話す。
「ねぇ、奏魔君がいないんだけど、知らない!?」
「八加ならここで寝てるぜー」
「えっ、嘘!?なんで!?」
「まだ八加寝てるから、あんまうるさくすんなよ。」
「…じゃ、用は放課後でいいや。私、学校行くけど、奏魔君遅刻させないでよね!」
ゆかりッチが学校に向かった後に、八加を起こそうとしたら手を掴まれた。
「どこ行ってたの?」
「あ、起こしちまったか?悪ぃ。」
「いいよ、もう目が覚めてるから」
もそもそと八加が起き上がる。
「部屋で支度してくる。すぐ戻るから待っててよ?」
「分かってるよ。」
八加は急ぎ気味に部屋を出た。
そういや八加と一緒に登校ってのは初めてだったな。
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5月、6月あたりの話です。
あまり時間軸は考えないで日常の話を書くのが好きです。
あまり動きがなく会話だけの話です。
背中合わせで会話とかよくやってそうな二人です。